1.相続とは
「相続」とは亡くなった人の財産を、妻や子供などの特定の関係者に渡して承継させること、つまり遺産を貰うことです。
法律では亡くなった人を「被相続人」といい、財産を貰う人を「相続人」といいます。
「相続」は被相続人が死亡した時に始まります。
2.遺産とは
「遺産」とは相続財産とも言われ、亡くなった人が遺した財産で、これが相続の対象となります。
例えば、現金、預貯金、株券及び国債などの有価証券、車や貴金属、土地や建物などのプラス財産ばかりでなく、未払いの固定資産税などの公的負債や銀行や知人などからの借金などのマイナス財産も遺産に入ります。
「被相続人」が亡くなったら、被相続人の財産調査を行ない、遺産総額を確定させます。
3.「遺産」の分け方?
「被相続人」が亡くなったら、「遺言書」が残されているかどうかをまずは確認しましょう。
「遺言書」がない場合は、相続人同士が話し合って次の方法で分けます。
①「民法」の法定相続分のとおりに分ける。
②相続人同士が協議し話し合って遺産の分け方を決める(遺産分割協議)。
③残された借金が多いときは相続放棄や限定相続などを選択する。
★「遺言」については別項を設けて詳細に説明させて頂きます。
4.遺産を貰える人(相続人の範囲)
① 「遺産」を貰えるのは民法が決めた「法定相続人」かその代襲者ですが、被相続人の「遺言」で遺産を譲ると指定された「受遺者」が遺産の一部を承継することがあります。
② また、2019年7月から、被相続人の生前にその介護などに貢献した息子の嫁等が、「特別寄与料」を「相続人」に対して請求できるようになりました。
③ 相続欠格者(被相続人に対し、故意に自己に好都合な遺言をさせるなどした者)、
被相続人を虐待するなどの悪質な行為をして相続人から廃除された者は、遺産を貰えません。
5.法定相続人とは次の人たちです。
例えば、
この場合の法定相続人は配偶者と長男・長女です。
相続の順位 第1順位・・・子供及びその代襲者(孫、ひ孫等) 第2順位・・・両親などの直系尊属 第3順位・・・兄弟姉妹とその代襲人としての甥姪 |
6.相続関係図と法定相続確定情報
①相続関係図:被相続人を中心に、その血族関係、親族関係を図に表し、法定相続人を確定していきます。
②法定相続確定情報証明:被相続人の親族等のうち法定相続人として確定できる人物の一覧図を作成して法務局に提出し、法務局の登記官がその内容を確認して、法定相続人を証明します。この書面を法定相続確定情報証明(書)といいます。この証明書だけで、相続人の預貯金を解約したり、名義変更登記などの相続手続を行えます。
7.民法による遺産の分け方
第一順位の相続人・・・2分の1 (複数人いる場合はその数で割る。3人の場合は一人6分の1となる。) 配偶者・・・・・・・・2分の1 |
第二順位の相続人・・・3分の1 (両親が生存して場合はその数で割る。2人とも健在の場合は一人6分の1となる。) 配偶者・・・・・・・・3分の2 |
第三順位の相続人・・・4分の1 (兄弟姉妹が複数人いる場合はその数で割る。4人が健在の場合は一人の貰う割合は16分の1となる。) 配偶者・・・・・・・・4分の3 |
★相続放棄、限定承認は3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てます(被相続人の死亡後3ヶ月を経過していても、放棄が認められる場合がありますので、ご相談下さい。)
8.遺産分割協議書について
遺言書がない場合は、まず相続人で話し合い、遺産を民法に基づいて分ける方法にするか、相続人で話し合って分け方を決めます。遺産分割協議ができた場合には、「遺産分割協議書」を作成することになります。
「遺産分割協議」には相続人全員が参加しなければ、その結果は無効となり不成立になります。また、未成年の相続人がいる場合は特別代理人の選任を家庭裁判所に申立て、その特別代理人もこの協議に参加します。
協議の結果は遺産分割協議書として記録を残します。自筆でもワープロでも構いませんが、この文書に参加者全員の署名と実印の押印をし、印鑑証明書を添付してはじめて実際の相続手続に使える有効な書類となります。
9.相続手続
必要書類を揃えて預貯金などの解約手続及び払戻しをしたり、不動産の所有権移転登記などを法務局に申し立てます。その他種々の死後事務手続を行います。
10.清算
遺言、民法、遺産分割協議書などで決定した割合で、各相続人はその分割された遺産を承継します(貰い受ける)。
★葬儀費用や永代供養の費用など、死後事務に費やした金銭などはすべて遺産から出費し、残された金銭を分割することになります。
★上の死後事務等の一定額の金額の費用については、2019年7月1日から家庭裁判所の判断なくして払戻ししてもらえるようになりました。
以上、相続に関する基礎知識を時系列で見てまいりました。「相続」は誰にでも起こることですが、愛する人を亡くした悲しみや手続きの複雑さのために着手が遅れがちです。出来るだけ早く相続手続を着手して、損失や争いを最小限度に留めたいものです。
私ども福岡南行政書士合同事務所は「相続」や「遺言」に関して、誠実に皆様のお役に立ちたいと願っております。
また、次項で「相続」問題で一番重要な「遺言」について基本を記載いたしますので、是非ご参考にしてください。
遺言
1.遺言とは
自分が死亡した時に財産等を誰に承継させたり、どのように分配するか等について、自己の最終意思を書き残しておくものです。原則として「遺言書」がある場合には、法定相続より優先されて遺言書の記載内容に従って遺産の分配を行います。そこで、「遺言書」の中で、日ごろお世話になった方、感謝を伝えたい方に一定の財産を残す旨を書いておけば、その思いを伝えるとともに、相続人以外の方に対しても財産をお渡しできるものです。これを遺贈といいます。
このように「遺言」とは後に残る人たちへの感謝や愛情の表現と言えるのではないでしょうか?
2.遺言書の種類
主に3種類あります。それぞれ決められた様式があり、その様式の要件を満たすことが大切です。
種 類 | 内容・様式 |
自筆証書遺言 | 遺言者が遺言の文章の全文、日付、氏名を自筆で書き、押印します。2019年の1月13日からは、財産目録(通帳の記号番号、不動産の表示など)はワープロで書いたものや写真に撮ったものなどを添付出来るようになりました。但し、別紙との間には署名契印が必要です。自筆の遺言書が発見されたら、開封せずに家庭裁判所の検認を受けなければいけません。2020年7月10日からは、法務局が自筆遺言証書を保管してくれます。この場合は家庭裁判所の検認は不要となりました。 |
公正証書遺言 | 遺言者の意思のとおりに公証人が筆記した遺言書に、遺言者、公証人及び証人2人が、内容を確認した上署名・押印します。原本は公証役場が保管しますので、紛失のおそれがなく安心できます。 |
秘密証書遺言 | 遺言者が遺言書に署名・押印の上封印し、封紙に公証人が日付を記入し公証人、証人2人以上、遺言者が署名・押印する。現在ほとんど利用されておりません。 |
3.「遺言書」はなぜ必要でしょうか?
「遺言書」をお勧めすると、「うちの子供たちは仲が良いから」「私には財産なんてないから」などと言う人が多いのが現状です。事実日本にはまだ「遺言書」を残す習慣は、あまり定着してないように思えます。
しかし、「遺言書」を残すということは、残された家族に自分の財産についての最終的な意思を伝えるとともに、感謝や慰労の思いも伝えることもできます。
また、ご自分がいなくなったことによって生じる様々なトラブルからご家族を守る目的もあります。仲の良いはずの家族が、遺産を巡ってバラバラに分解する危機に直面した時、守ってくれるのが「遺言書」であり、その「執行人」なのです。
4.「遺言執行者」とは
「遺言書」を残した人は、自分が死亡した後に、その内容を実行して貰うことになるので、遺言が正しく実行されるのを見届けることは不可能です。そこで遺言者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する「遺言執行者」を「遺言書」の中で指定することが出来ます。
2019年7月1日から「遺言執行者」の権限が民法の中で明確化されました。
5.「遺言書」が遺されてなかったので・・・
① Aさんは、亡き父親の相続人は自分たち兄弟二人だけだと思い込んでいました。
ところが相続人調査をしたら、父は再婚で、先妻との間に二人の子がおり、戸籍から察するに、二人の兄さんたちは複雑な事情を抱えているような状況でした。Aさんは悩んだ結果、相続手続をあきらめました。
②Bさんは、ご主人がなくなったとき、ご主人の兄妹たちの代襲相続人である甥と姪が13人もいてその内の1人が行方不明でした。Bさんは、失踪宣告を家庭裁判所に申し立てるか相続財産管理人の選任を申し立てるか迷いましたが、結局どちらもせず、そのまま亡くなったご主人の名義の家に住み続けていますが、将来の不安は残ったままです。
③Cさんも、ご主人が亡くなったとき、行方不明の代襲相続人がいましたので、失踪宣告を申し立てました。宣告が出るまでに1年以上も掛りましたが、相続手続を終えることができました。
④Dさんの場合は、大叔父が亡くなり、さらにその後、妻の大叔母が亡くなり、住宅と土地が残されました。Dさんは遠方におりながら、不動産の固定資産税を負担していました。そこで相続人調査をしたところ、大叔父は養子として入籍していたので、法定相続人が30人以上もいました。その相続人の中でDさんだけが大叔父叔母夫妻と交流があり、納税もしていたので、「土地と古い家をDさんに相続させてしてほしい」旨の遺産分割協議書に同意してもらいたいと他の相続人の方々に書面でお願いしました。一人の相続人だけが「遺産はいらいないが、見も知らない人のために、実印など押せない、ましてや印鑑証明書など渡せない」と拒否され、Dさんは調停を申し立てて時間と費用を掛けてようやく解決しました。
上の4つの例をみてみますと、亡くなった被相続人の「遺言書」さえあればスムーズに解決できたのに、遺言書を残されなかったため、相続手続が非常に複雑になり、遂には相談者は手続を諦めてしまうという事態にもなってしまいました。
6.40年ぶり民法(相続法)改正
以上「相続」と「遺言」の関係をみてきました。相続人にとって遺言がどれほど重要な意味を持つものか、お分かりいただけたと思います。
さて、今回、2019年の7月から2020年の7月にかけて、相続に係わる民法が大きく改正になりました。そういった改正部分もご説明しながら、無事に皆様の相続手続を進めさせて頂き、皆様に喜んでいただきたいと願っております。
なお、この改正については、法務省民事局から分かりやすい情報が、ホームページに公開されております。